契 (チギリ)



オマエガ カワッタラ マッサキニ オレガ コロシテヤルヨ

宣言。

表明。

通告。

約束。

契り。


高杉は、楼閣の一室で孕む月を眺めていた。
煙管から出る煙が、藍色の空と月をこする。白く暈ける。

斬ってやると既知の間柄であった男達に言われた事を肴にしながら、酒を飲む。
昔の面白みも無い、でも時々夢に見る情景を思い出す。


その日は昼間の暑さが嘘のように、夕暮れの風は酷く冷たかった。アキアカネが止っては前へ進むを繰り返す。

少年がムッツリと畦道を歩いている。

例え遊びでも負けが込んでくるといつもこの少年はそうだった。

拗ねる姿は子供らしい子供と言えなくもない。少年の後ろを、距離を取って歩く高杉はそういうのが苦手だった。

唯、高杉は少年が表面上そう見せかけているのではないかと思っていた。
普段は飄々としているように見える少年の、時々見せる暗い目を知っていた。

既に放置されて久しい田んぼに落ちている少年の影が,ピタと止まった。

「……」

何か言いたげに、むくれた様子でこちらを伺う少年。高杉と少年の距離は大分離れているが、判る。

現在進行形で戦が行われているとは思えない程、空は静かに色を変えていく。
その空を高杉は振り仰ぐ。

高杉は態と少年の様子に気付いていないように振舞いながら、ゆっくり、ゆっくり歩く。

少年は、高杉がすぐ側まで来るまで、待っていた。

実は少年は構われたがりなんじゃないかと高杉は思っていた。
高杉も子供だが、この少年と同じような行動を取るかと云われたら、「取らない」だろう。

「なんだ」

高杉がむくれた少年の顔を見つめながら、問いとも言えない言葉を発する。
少年の目は夕日を受けて、金色に見えた。

いつも他の者が側に居る時の喧嘩腰に近い言葉は、こういう時は少年の口から出ない。

「別に」

そう呟いて、少年の目線は赤橙になっていく空を見つめていた。
移ろう季節や時間ごとに変わる景色を、この少年は何より愛しんでいた。

少年は夕日から目線を外し、高杉の目を見つめながら言う。
「目が赤い」

高杉の眸は夕日を受けて赤く見えていたらしい。特に言い返すでもなく、高杉は歩き出す。

少年が無言で、同じ速さで歩き出すのを音や気配で感じながら。


少年の愛する季節も時間ごとに変わる空も、変わってはいるが、変わらない。
ずっと、自分達が生まれる前から繰り返され続ける変化。

美しき、矛盾。


高杉と少年は、全く違うようで、似ていた。考え方とか仕草ではなく。それは全く違うと言っても過言ではない。
もっと深い所が、似ていた。


高杉の意識が現在へと帰ってくる。月は頭の上にいる。昨日とは違う顔に見えるが、同じ顔。

変わる事を愛おしむ男。変わったから斬るという男。

俺も同じ事を考えていた。


オマエガ カワッタラ オレガキル。


それこそ俺達が変わっていないという証左じゃないか?


【終わり】
ヒトコト
昔ノートに書いていた小説?擬きです。正直高杉視点で書くのが大変だったので…。

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