「井戸端で」 (いどばたで)




月が頭上で円を描く頃。
夜が昼間のように…等と言うのは大袈裟だとしても、今夜はそう言っても差し支えない明るさであった。

灯りを使わずに外にある井戸の水を使ってこっそり体を拭くのには丁度良い。

井戸の水は思いの外冷たい。まだ暑気の残る季節とはいえ、夜は流石に気温が下がるので、余計に水の冷たさを感じる。
何故こんな夜更けに半裸で井戸の水を使って体を洗わねばならないのかというと、他の者と風呂に入れないから。

業腹とはこの事で、その原因となった銀髪頭は素知らぬ顔で皆とワイワイ風呂に行ってしまった。

手拭いで首筋を拭きながら、夜空を見上げる。星なのか、天人共の船なのかは判らないが、偶然動く光が目に入る。

「あ、流れ星」

掠れた声が後ろから聞こえた。

慌てて振り返ると、銀髪の少年が、白い寝間着を着て突っ立っていた。
暗闇に真っ白な姿で立っていると、亡霊のようだ。ふと美女の幽霊画を思い出した。
昔1度だけ見た掛け軸を。恐怖させるために描かれたものではないのか、不思議と怖さを感じなかった絵だ。

真っ白な少年はなんの躊躇もなく、こちらに向かって歩いてくる。
「何してんの」

見て判らないのかと言いたくなったが、我慢して、無視する。全部お前のせいだろうと心の中で悪態をつきながら。
背を向けたまま振り返りもしなければ、呆れて部屋に戻るだろうと思った。

それなのに。

少年が、首筋に触れる。

うなじの髪の毛を払う。

動作は緩慢で、指は暖かかった。冷えた体には気持ちよく感じる程に。

「水浴びなんてしてたら風邪ひくんじゃね?」

声変わりしかけの掠れた声が、知らない者の声のようだ。
後ろに立っているのは、本当に銀時なのかと疑いたくなる。

それ位、昼間の銀時と今の銀時は様子が違う。

「一人でゆっくり考え事しながら身体拭きたかったからだよ」

咄嗟に口をついた嘘。声がまだ高い自分が、恥ずかしくなる。

銀時とヅラが、急に身長が伸びてあっという間に声変わりした。
松陽先生は嬉しそうだった。人の成長を眺めるのは楽しいものだと言って。
置いて行かれるようだとは思わないが、面白くない事は確かだ。
銀時がそれについてやたら揶揄ってくる事も気にいらない。

銀時は相変わらず俺の肌に触れていた。点と点をなぞるように。
自分が付けた痕をなぞっている。

初めは興味だけだった。

今だってきっとそうだ。お互いの身体に対する興味だ。
何処を触れば反応するのか、どんな顔をするのか、どんな声を出すのか。

どんな痕がつくのか。
銀時は熱心に身体中きつく吸ったり、噛んだりした。

二日前にはしつこく片方だけ乳首を吸われて腫れてしまったので、今日は仕方なく、こうやってこっそり体を洗っている。

全部コイツのせいで。
井戸端で一人佇む幽霊みたいに。


すると、覚えのある濡れた感触が項に触れた。

また体を拭き直すはめになる…と腹立たしく思うのに、何故か身を任せてしまう。
好きなようにさせてしまう。

この気持ちがなんなのか、まだ自分には判らない。
銀時も判っていないだろうと思う。

銀時が後ろから腕を回してきた。熱い掌が体をまさぐる。

いつもいつもこちらが不愉快になる言動ばかりの銀時だが、この触れ方は好きかもしれない。


手は下腹部を布の上から触る。
薄い襦袢と下穿きで隔てられているはずなのだが、直接触られたような感触に身震いした。

お互い熱い息を吐き出す。

これより先の行為に至っても構わない気持ちになったのだが、場所が気に入らない。

皆が当たり前に使うような場所でするのは嫌だと言ってるのに。



 【終わり】

ヒトコト

銀時は嫌がるかもしれませんが、幽霊画見た時に思い付きました…。

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