「骨のなく夜 閨にて」 (ほねのなくよる ねやにて)




コツン

銀時の肘に、軽い痛みが走った。
先程布団にもつれあいながら転がった時に高杉の肘の骨と銀時の肘の骨が軽くあたっただけだったのだが、当たり所が悪いとビリっとした痛みがあるものだ。


仲間たちは飲み屋やら遊郭に繰り出してしまい、宿泊場所として借りている農家の離れはシンと静まり返っている。
何人かは夜の街に繰り出してない筈なのだが、静かだ。

銀時は面白くない事があったので、夜の街から早めにここに戻ってきていた。
面白くない事というのは、女絡みで高杉と揉めた事だ。

同じ妓を、指名してしまった。しかも、女は高杉の方が好みだと言ったのだ。
今思い出してもクラクラする程銀時にとっては屈辱だった。

皆の前で必要以上に恥をかいて、夜道を一人トボトボと帰ってくるハメになった。
正確には、途中で高杉と一緒になったのだが。

高杉の身体から香ってくる甘い香りは、多分あの女の香りだろう。
白粉の匂いも混じって、最早高杉からはいつもの高杉らしい匂いがしない。

まるで別人のように感じるのはこの香りのせいもあるし、高杉にも女を抱く時の顔があると想像してしまったからだろうか。



銀時は殆ど無意識に、目の前に横たわって寝息を立てている男の髪の毛を指で梳いていた。
外の乾燥して冷たい空気とは全く違う、暖かい湿った空気が布団の中に満ちている。

少し痩せたかもしれないと高杉の腰のあたりに手をやる。
骨ってこんなに出てるものだったかと、自分と比べてみる。

最近は天人軍の攻勢は緩んできていたが、逆にそれが高杉の神経を尖らせていたようで、食が細くなった気がしていた。
他の連中には食っておけと言うのに、自分の事はあまり顧みない。
ヅラはとっくにその事に気が付いているようで、時々握り飯等を差し入れていたようだが。

高杉が銀時に助けを求めたり相談する事なんてありえないという事は判っている。
銀時が手を差し伸べる事を、高杉は望むだろうか。

桂が自然に高杉に気を遣い、それを当然のように受け入れている高杉。

それは銀時には出来ない事だった。

当たり前だが高杉も人の子で、時々弱っているのを隠せていない時がある。
痩せたりして外見で判る時もあれば、先程の帰り道でこぼした言葉の中にも高杉の本音が見えた。

自分に執着されるのを恐れている。戦場で自分の命が誰かの足枷になるかもしれないという事も。

自分だっていつか白い骨となる。そうなったら供養しなくていいから野晒しにしろと。


馬~鹿、と銀時は少し笑った。

お前の骨を必死に集めて、幽霊でもいいから出てきてくれなんて俺は言わねェからな。幽霊駄目なんだから。

「骨釣り」の話に出て来るような美人な幽霊なら兎も角…、そこまで考えて銀時は身震いする。いや、やっぱ駄目だわ。


銀時は高杉の首の後ろに手を差し入れて、高杉に覆い被さった。高杉の寝息が乱れる。瞼が薄ら動く。

「ザリザリする…」

殆ど聞き取れない声で高杉が言って眉間が少し歪んだ。当然と言えば当然で、二人は何も身に着けていないから、下生えが当たる。

銀時が瞼やら眉間に唇を押し当てると、観念したように高杉は目を開いた。

「またはらしてんのか」

呆れたようでもない、なんとも形容しがたい顔で高杉は銀時の陰茎に触れた。

「うんうん」

お互いの顔がぐっと近くなり、至近距離で見つめ合う。

「もう紙がネェな…」

高杉が体液を拭くものがないからとやんわり続きを断る。

銀時は高杉の唇を強く吸う。
驚いたらしい高杉が、腕を突っ張って離れようとする。高杉の骨がギシと軋む音がした。

銀時の骨にまで伝わってくるような、軋み。


直ぐに抵抗を止めて高杉も銀時の口を吸って、舌を食む。

高杉の匂いはまだ甘く、所作は全て優雅さがある。それが余裕の表れとしか思えず、銀時はイラついた。


もっともっと、身体の底から響く軋みを。


そう思って銀時は力を込めて高杉を抱く。

「……っ」

高杉の舌の動きが止まり、呻きが漏れる。目はきつく閉じられている。


肉が潰れ、骨が乾いた音を立ててぶつかり合い、砕ける。
銀時の頭の中では二人、真っ赤に爆ぜている。


お互いの境界が無くなる程密着する妄想に囚われる。止めようのない、戦場で命を絶つ時と同じ衝動。

命を寄越してくれ。命が欲しいなら、こちらにも寄越す覚悟を。




「高杉」

銀時の声が、高杉の顔に落ちる。
そっと目を開けて銀時を見つめる。
 
  高杉の目には、表情のない銀時が映っていた。
 
およそ睦みあうという言葉が似合わない、暗い瞳。


先生が時々するどこか暗い瞳に似ている。戦を憂う瞳ではない。あれは…。



 【終わり】

ヒトコト
pixivに投稿した小説「骨泣き夜」の別バージョン…。


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