蟻の夢/el paradiso(g) (ありのゆめ/パラダイソ ぎんとき)




【夜の夢こそ真】

 リー

 夜の虫が静かに鳴いている。秋の気配。

 今日は祭りの手伝いで大分遅くなってしまった。町の方はまだ祭の余韻があるが、
町から離れたこの一軒家の建つあたりは静かだ。

 途中までは道も舗装されていて原チャリで走っても問題無いが、
町を離れる程に道路が悪くなってくる。

 高杉用に借りた一軒家の周りも例外ではなく道はひどいので、途中で原チャリを降りて押して歩く。

 いつも通りの経路でこの一軒家に向かって、原チャリを止め、いつも通り引き戸を開ける。

「?」

 いつもは置いてない桶が勝手口にある事に違和感はあったが、
おなみちゃんが仕舞うのを忘れたのかもしれないと思ってそのままにした。


 ひたひたと、廊下を歩く。雨戸は開いたまま。


 いつも一番最初に入る部屋からわずかばかりの光が見える。
珍しく起きているようだ。


   障子を開ける。
文机に突っ伏して寝ている高杉の姿が目に入った。

「寝てんじゃん」

 ボソッと声に出てしまったが、部屋の主は目を覚まさなかった。
文机の上を見ると、朝顔の押し花がいくつか作ってある。

 こんな可愛い事する人ですか? 高杉の側に跪いて押し花を手に取る。

 青い花。

 こちらは赤紫。

 そう言えば、朝顔の品評会がどうのといつか言ってた気がする。朝顔の品種改良が流行ってるのだ。
もし興味あるなら、やらせてもいいかもなと思う。


 文机についていた手にそっと触れられた。

 高杉がゆっくり顔を上げる。

「顔にアトついてますよ」

 そう言うと、高杉はブスっとしてゴシっと顔を擦る。

「いやいや、とれないでしょ、それじゃ」

 俺が笑うともっと機嫌が悪くなるのは判っているのだが、可笑しくて仕方ない。

「これ」

 押し花をつと持ち上げる。

「あぁ…、おなみがやりたいって…」

 そういう事。可愛い事するなと思ったら授業の一環か。

「うん、綺麗綺麗」

「嘘くせェ」

「あ、髪切った?」

「おなみが少し梳いてくれたよ、器用な娘だ」

「言えば切ってやったのに」

「刃物持ったテメェに背後とらせるのか?」

「……」

 あ、しまった。変に間があいた。

「なんだよ」

 高杉の表情が、いつもと違う気がした。

「いいや?」

 詮索しても駄目だろうな。

「ここから花火見えた?」

 今日は祭で花火も上がったのだ。

「あぁ、おなみと見たが…。余程高く上がったモンじゃなけりゃー、音しかしねェな」

 以前よりはずっと楽そうに立ち上がる。バランスが自然にとれるようになってきたのだろう。

 立ち上がった高杉は、帯を解いて着物をするりと足元に落とした。
襦袢はおなみちゃんが着物から作り直したもので、女物と人目で判る生地で派手だった。
絽目に涼し気な青い朝顔と、緑の蔓が絡んだもの。

「布団敷く?」

「風呂に入りてェから行ってくる。あのじいさんが作ったあれ、便利だな」

「あぁ、シャワーね。俺も浴びようかな」

膝に手をかけてどっこらしょと立ち上がると、高杉は喉の奥で笑った。


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「自分でやったりする?」

「もうあまりしねェなァ…」

 風呂場の壁に寄りかかった高杉の足元に膝をついて、高杉自身に唇を寄せる。
ぽってりとした部分を口に含んで鈴口を舌で抉じ開ける。

 手で茎をこすっていると芯が通ってきて、鈴口からは液体が次々出てくる。


 暫くすると高杉の荒い呼吸音が、上から降ってきた。


   痛みを我慢していたあの時の声に重なる。ここに運び込んだ時に
呻き声も上げたくないと歯を食いしばっていたが、時々もれていたあの声と。

 その後昏睡状態になったので本人は覚えていないかもしれないが。


 口と手で刺激を与えていると、昂ってきたのか、高杉の右手が俺の頭を掴んだ。
  口を離せという合図でもあるが、無視して舌で弄り続けた。

「銀時…!!」

 狭い風呂場の壁に声が反響した。

 口の中にドロリと塩味と苦みが広がって…

「オエェ」

 飲めない。

「出すなよ、テメェがやったんだろ…! 飲め!」

 怒気を孕ませた表情で高杉が俺の髪を掴む。
それを振り払って立ち上がり、高杉の腰を引き寄せて口づける。

 舌で、口の中のモノを高杉の口の中に捻じ込んでやる。
高杉は身を離そうと体と体の間に右手を差し込むが、離してやるものかと腕に力を込めた。

 頭も動かないようにがっちりと抑える。高杉の後頭部が丁度自分の掌に収まる形なのがいい。

 舌を噛まれるんじゃないかということが、一瞬頭をよぎるがそんな心配は杞憂だった。
高杉も舌を激しく絡めてくる。口の中のモノを追い出すのに躍起になっているだけかもしれない。

 
 暫くお互いの口中を貪っていると、高杉の子種が唾液で薄くなっていく。


「今度やったら許さねェからな、こういうのァ好かねェんだよ…!」


   目元が怒りか快楽かで紅潮している。唇もヌラヌラと光ってる上に赤味が増している。

「飲んだ?」

 唇から垂れている唾液と精液を指で拭ってやる。されるがままの高杉は伏し目になって厭そうに

「ちょっと飲んじまったよ…」

「今流行りの自食ってヤツだから。流行ってるから大丈夫」

「は…? それ意味…。わかんねぇ」


 うん、意味ないよ。意味なんて、ずっと無かった。こうしたいってだけ。


 腰に止まっていた右手で高杉の尻に触れる。間にそっと指をあて、蕾を撫でる。

「俺ら 馬鹿だな、潤滑油部屋に忘れてきた」

「らってなァ、なんだ。別に今日は入れなくてもいい」

 高杉が俺の肩口に頭をのせる。

「そんな熱い息吐きながら言われてもね…」

 指で穴を撫でて、指の先を入れる。

「!!」

 高杉の身体が跳ねる。あぁ、痛かったんだな。

 まぁ、潤いも何もないからね。


   高杉は以前ポロリと本音をもらした事があった。
硬いものを奥まで入れられるのは痛いだけだって。

 でも俺は奥まで入ってる時に高杉がイクのが好きだから奥まで入れたいんだけど。
女とする時に、精液搾り取るみたいに中が動くアレみたいになるから。


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【パノラマ島異聞】


   理想郷の話は古今東西どこにでもあるもの。

 贅沢は言わないから、皆でワイワイ楽しく騒げる歌舞伎町が護れればそれでいい。

 そこに自分はいなくてもいい。 それが自分の理想郷。



 だったらこの世界は?

この世界はなんなのか。

 高杉と俺、二人だけの世界。

 これは俺の理想郷?
今まで自分がそこにいなくてもいいと思っていたのに?

ここは二人がいないと成立しない。



 食べ残した西瓜の上で二匹の蟻が死んでいた。
こいつらは何を思ってこの赤い頂きを、群れから離れて目指したのか。




 また雨戸も障子も全開で、布団になだれ込んで体を繋ぐ行為に耽溺している。


 ザラリとした素足が絡んで、如何にも男同士だという感触が不快なのに
何故かこうする事を止められない。

 好きなのか、唯の肉欲なのか。


   奥まで俺を咥えた高杉が苦しそうな表情をしている。
滅多に痛いなんて事は言わない奴がそう言うんだから余程かもしれない。

 お詫びとばかりに時々高杉が好きな部分も擦ってやると、声が変わった。
ひっかかるのが好きらしい。

 ハッキリ言われた事はないけど。良い時は俺の事を必死で呼ぶ。

「ぎん…っ、銀時…っ」

 律動で高杉の声が震える。



 ふと。



   目の端に動く物が。


 何故気付かなかったのかと舌打ちしたくなった。
この特殊な空間のせいだろうか。

 ここではまるで全ての感覚が限定的になるような錯覚がしていた。
目の前にいるただ一人の者にしか集中出来ない。


 高杉の中で膨れていた陰茎をズルリと抜くと、
高杉は見た事のないような顔を一瞬した。困ったような、泣きそうな、名残り惜しそうな。


 すぐそこに脱ぎ捨てた着物を取ってひっかけると、廊下に飛び出す。


 先程障子の影で動いていたモノが、慌てて廊下の奥へ行こうとしているのを見つけ、腕をとった。

「おなみちゃん?」


   掴んだおなみちゃんの手は異常に震えていた。
必死に顔を隠すように、こちらから背ける。細い首筋の汗が光っているのが見える。

 
「すみません、すみません、厠に行きたくて…!」

 久し振りに聞いた声はまるで別人のように掠れていた。

「あぁ、そっか。いいよいいよ、行っておいで」

 強く握っていた手を離す。痕になっていた。
  おなみちゃんは、俺が掴んでいた部分をさすりさすり、逃げようとした方とは反対方向に駆けていく。


 部屋に戻って障子をゆっくり閉めた。


「隣にいたんだ?」


 高杉も身体を起こして、着物を羽織っていた。


「花火見たって言ったろ、そのまま帰らせるのも悪いからな」


「花火だけじゃなくこういうのも見物しちゃったらトラウマになんない?」


   まぁ、夜の商売をしていた子が、どれ位ショックを受けるかは想像がつかない。

 そう言えばおなみちゃんが家にいたのではないかと思い当たるふしはある。
いつもは片してある桶が出ていた事とか。

 でも、履物等の所持品が残ってなければハッキリそうだと言えない。


「悪かったよ」


 気怠そうに、文机を寄せて頬杖をつく。
汗で着物が貼りつくのがいやなのか、少し裾を払う。白く細い足がのぞく。


「あの子に言われたよ、高杉晋助は死んだはずだって」


 あぁ、そうか。


「死体も見つかってるんだって? 隻眼だったそうじゃねェか。
一体誰だったんだろうな」

「一体俺は誰なんだろうな」


「その話を聞いたらよ、夢を見るんだ。テメェが夜叉の形相で俺の左腕を落とす夢だ」


 高杉がゆっくりとこちらを見上げた。


「でも不思議だなぁ…」


   高杉の笑顔。こんな笑顔は暫く見ていない。


「テメェが怖いなんてこれっぽっちも思わねェな。例え夜叉の形相で殺されても」


「本当にすまなかったと思ってるよ、あの子にもお前にも。泊まってる事、言えなかった」


   伏し目にすると重そうな睫毛が揺れる。
その睫毛と、細く息を吐く唇から目が離せない。
 


   高杉。


 高杉、俺は。


 今、どんな顔をしてるか教えて欲しい。


ヒトコト(20170826)
一旦、ここで終わります。

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