ムーンウォーク



「何か良い事でもあったか」

ボソリと低い声で、かつては聴き慣れていた声で高杉が呟く。

「え?別に? なんで?」

月明りで照らされて、白く浮かび上がったベンチが軋む。高杉が、背凭れに寄りかかった音だ。
ふーっと煙を吐く音。

「そうかい、そう見えたんだがな」

随分年寄臭い話し方をするようになった気がする。
いや、自分もだ。

街はかつての賑わいを取り戻しつつある。灯りが少しずつ戻ってきている。
まだ公園のような生活圏から少しはずれた所には街灯すらともせないでいるが、きっといつかここにも灯りは点るだろう。

今は月が静かに空に点る。

改めて高杉の横顔を見る。

頬はこけて、大人の顔つきだった。記憶の中を占めていた少年の顔ではない。

かつて、黙って去っていった上に思い通りにならないこの男に、憤りに似た物を感じていた事は確かだった。


斬ると決めた事も、建前ではない。


同じベンチの、端と端に腰かけ俺達は月を見上げる。アレの近くまで行った事がある。俺達は宇宙を歩いた事がある。

その時は必死で戦っていたから、そんな事に感傷的にはならなかったけれど。


「今度は月の上で地球でも見てぇもんだな」

「あれは綺麗だった」


独り言みたいに、歌うように話す高杉の声。

それはデートのお誘いですか? おれ金無いよ? ターミナルもぶっ壊れちゃったから、今までよりずっと金かかるよ。

ふっと高杉が、まるで俺の心の中を読んだみたいに笑った。


「…何笑ってんの」


今度こそ、無自覚でなく俺は笑った。


【終わり】
ヒトコト(2017/05/21)
銀魂アニメのエンディング曲「ムーンウォーク」を聴きながら…。これ凄く好きな曲です。

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