【タクシードライバー】



今日の仕事はたいした金にならなかった。その上その少ない金を飲み代に使ってしまった。
薄い封筒を懐に仕舞う。流石に深夜の仕事は新八と神楽を連れてくるわけにもいかず、今日は一人での仕事だ。

ついでに頑張った自分への御褒美だったはずなのに。
いつも飲み歩く飲み屋街じゃなかったのが災いした。終電を逃してしまった。
暫く電車に乗ってなかったから時間、うろ覚えだったんだよな…と後悔しても遅い。

始発待つかと駅前のコンビニに入ろうとすると

「銀さん!」

聞き覚えのある声。でもあたりを見回しても見知った顔どころか人がいない。

長谷川さんの声に似てたけど、悪霊にでもなったのかな、うわ、コワ!!

そう考えながら改めてコンビニの方に足を向けた。

「ちょっとぉぉぉぉ!! 銀さん!! まだ死んでないからね!! こっちこっち!!」

振り向くと、一台のタクシー。長谷川さんが運転席に乗っている。でも、グラサンだった。

「あのさぁ、人の思考を読まないでくれる?」

頭をボリボリかきながらタクシーに近付いて、助手席のドアを開ける。

「えっ何、ちょっ、乗るの?」

「車でナンパされたらついてく主義だから、俺」

「ナンパって…。駄目だって、ほいほい付いていっちゃ…って、誰がこんなくたびれたおっさんナンパするの」

「くたびれたオッサンはあんた…」

長谷川さんは、黙って車を発進させる。自分は体を丸めて、寝る体勢に入る。

「なに、就職したの、オメデトウ」

「いや、臨時で」

声に覇気がない。

「だよねー…っていうか、夜はグラサンで運転しない方がいいと思うんだ…」

「あぁ、外すの忘れてた」

カチャカチャとグラサンを胸ポケットにしまう。そしてラジオのボリュームを少しだけ上げた。
臨時ニュースが丁度入ってきたところだ。

幕府の人間が、また何人か殺されたそうだ。

首謀者の名前は聞き覚えがある、アイツの名前。
ヅラが大人しくなってからは、もう一人の幼馴染の名前ばかり聞くようになった。


臨時ニュースが終わると、すぐに曲が流れててきた。 リクエスト曲なんだろうか、陰気な曲だと思った。ピアノの弾き語りが、眠気を誘う。

「あれ、これカバー?」

長谷川さんが、ボソリと言った。長谷川さんは知っている曲なんだろうけど、自分は知らない曲だ。

長谷川さんが息を吐いた。まるで、笑ってようだ。何か可笑しい事でもあるのか?

もう、眠くて眠くて、話したいとは思わないんだけれど。

「…何」

なんで笑ったのか、それだけは聞きたかった。

「いや、銀さんだなーって思って」

だから、何が。

「…苦労人のタクシードラバ―だったら長谷川さんじゃん…」

「…うんうん、そうだけどさ…。判ってんならちゃんと金払ってよ?」

沈黙。

「ちょっと? 銀さん?」


「俺も眠気覚ましに天気予報が外れた話と野球の話でもしようかな…」


いや、それもっと眠くなるんじゃね?


ちょっと隣で眠るの悪いかなと思ったけど、いいや、長谷川さんだし。


【終わり】
ヒトコト(2017/05/22)
中島みゆきさんの「タクシードライバー」を聴きながら。
ツイッターの鍵垢で、この歌銀さんっぽい!って話が出たので(笑)
聴いてみたら、銀さんもそうだし、長谷川さんっぽい!(笑)と思いました。
銀高っぽくないけど、ちょっとだけ銀高なんですよ…。自分の中では…。

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