【週刊銀高さん「手」】




ムッとする血の匂い。火薬の匂い。

そこかしこに死体が転がっている。そのうち腐敗が始まるだろう。

仲間を置いていくのはしのびないが、敵の第二軍が迫っているという情報が入り、撤退する事が決まる。
西側に展開していた鬼兵隊と連絡がとれなくなったとも聞いた。

桂は険しい表情を隠さなかったが、撤退戦の準備を進める。

辰馬が怪我で退いてからは、厳しい戦況は続いた。
天人軍はどんどん軍隊を投入してくる。

ずっと刀を握っていた手は、血が乾いた事と強張りで動かなかった。


「銀時!」


桂の、怒声にも似た声が響く。どうやらずっと俺を呼んでいたらしい。

「撤退するぞ」

「……」

「始めに決めた通りだ、判ってるな」


ヅラは正しい。


そして俺は、いつでも正しくない。

「ちょい、ウンコ行ってきていいかな」

そう言って道の途中から藪に入りこむ。

桂はすぐ察したようで、追って来ようとする。

「いや、連れウンとかしたくないから!」

そう行って全力で走り出す。


途中まで背後からヅラや他の志士たちの声が追ってきていた。
その声を振り切る。

斜面を転がり落ちる。枝が顔に当たるのもお構いなしに。



無我夢中で藪と木々の間を走り抜けると、鬼兵隊が展開していたはずの、戦場だ。

死体の山を想像していたが、思いの外死者の数は少なく、でもどんな武器を使ったんだと疑問に思う程、
土は抉れ、斜面は崩れていた。


 あの男は、立っているはずだ。


 戦場で。


そう思って時折見かける見知らぬ顔をした遺体には目もくれずに走り回る。

時々つまづきながら、自分でも笑いがこみ上げる程必死になって走っていた。
自分の滑稽な姿に、立ち止まって笑ってしまう程に。


笑いがおさまり、ふと前方に人間の手が見えた。
土に埋まって手だけが出ている様。


指なしの黒手袋をはめているらしいその手は血に染まっていた。


高杉の手に似ていた。


だが。

違う。


じっくりと見た事などは無いが、違う筈だと思った。


声を張り上げて名を呼ぼうと思ったが、カラカラの口内は咽喉の奥まで貼りついてしまったようで息苦しい。


「銀時」


飛び上がってしまった。


よく通る、聞き慣れた声はすぐ後ろから聞こえたような気がした。


呼吸を整える。すぐ振りかえられる程、今落ち着いていない。


「銀時…?」


最初の声より幾分、低い声で高杉は名を呼ぶ。



今、自分はどんな顔をしている?



ふと手を見つめると、刀を何処かに置いてきていることに気が付いた。
戦場では幾度となく折れ、曲がる。その度に落ちている刀や、時には別の武器を使う事もある。


先程までしっかり握っていたと思っていた刀は、恐らく藪に入る前に自分で手放したのだろう。


掌には刀の柄巻の形に血が固まっている。
それを見つめていると、背後から声の主が腕を掴んできた。


「銀時」


掴まれているところから熱が伝わってきた。


高杉の手。



今度は、もっとよく見てみようと思った。爪の形も関節も、手の甲も掌も。


【終わり】
ヒトコト(2017/06/23)
Twitterの「週刊銀高」さんの2017年6月10日のお題「手」。
手って色々と考えられるような気がしたんですけど、難しかったです。

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